岡野の化学でコロイドについて学習する中でゾルとゲルの話が出てきたので、ゾルーゲル転移とその利用について調べたところをまとめます。
ゾルとは
ゾルとは何かに入る前に、コロイドとは何だったかを復習します。
コロイドとは、イオンや原子よりもサイズの大きな粒子が分散した系のことを言います。
具体的には以下の特徴を持ちます。
・ろ紙を通過できるけれども半透膜は通過できない
・直径1㎚~1㎛程度の大きさ
・固体・液体・気体のいずれかの状態のコロイド粒子が、気体・液体・固体のいずれかの分散媒に分散した系(ただし、どちらも気体の例は存在しない)
分散する側のコロイド粒子のことを分散質といい、分散される側の物質を分散媒と言います。
ではゾルとは何かというと、分散媒が液体の場合のコロイドを特にゾルと呼んでいます。
身近なゾルの例を挙げると、泥水、インク、化粧水などがあります。
これらの例からも分かるように、ゾルの大きな特徴は流動性があるということです。
ゲルとは
ゲルは、ゾルの特徴である流動性が失われて固体になったものです。
系の中でコロイド粒子の割合が増えてくると、窮屈になってコロイド同士が絡み合い、三次元の網目構造を作って次第に固まっていく、ということが起こります。
身近なゲルの例としては、ゼリー、寒天、豆腐、コンタクトレンズなどがあります。
上の例に挙げたゲルは網目構造の中に水分を含んで膨潤していますが、
ゲルを乾燥させると網目構造に取り込まれていた水分が抜けて空気に代わり、乾いたスポンジのような状態になります。
このような乾燥したゲルのことをキセロゲルといいます。
ゲルの例として豆腐を考えると分かりやすいと思いますが、豆腐を乾燥させた高野豆腐がキセロゲルです。
高野豆腐の他に身近なものだとシリカゲルもキセロゲルの例です。
高野豆腐が水分をよく吸ったり、シリカゲルが除湿に使われたりするのは、乾いたスポンジが水を含む要領でキセロゲルからもとのゲルに戻るためです。
ゾル-ゲル転移とは
ゲルの項目で説明したように、流動性のあるゾルが流動性を失ってゲルになる現象をゾルーゲル転移と呼んでいます。
ゾルーゲル転移が起こる際に三次元の網目構造ができると書きましたが、三次元の網目構造を作るにはその立体的な構造を支える架橋点が必要になります。
短い針金のパーツをいくつもつなげて立体的なワイヤーアートを作るときに、個々の針金を固定する点が必要になるようなものです。
架橋構造の作り方によって、化学ゲルと物理ゲルの2種類に大別できます。
それぞれ以下で見ていきましょう。
化学ゲル
化学ゲルは、共有結合などの化学結合によって架橋構造が作られるゲルを指します。
モノマーが存在する溶液中に重合開始剤を添加してポリマーを作る場合が多くあてはまります。
例えば、岡野の化学のイオン交換樹脂のところでも出てきたポリスチレンとジビニルベンゼンが架橋する例も化学ゲルに含まれます。
化学ゲルの場合は共有結合などの強い結合によって架橋されているため、三次元の網目構造が安定で壊れにくいという点が特徴です。
そのため、一般的には一度ゲル化すると元のゾルには戻りません。
例えば先ほどゲルの例で挙げた中ではコンタクトレンズが化学ゲルです。
同じゲルでも豆腐などは次に説明する物理ゲルに属し、指で少し押しただけで簡単に形が崩れてしまいますが、コンタクトレンズはそのようなことはありません。
物理ゲル
物理ゲルとは水素結合など化学結合に比べて弱い分子間力で架橋されているゲルのことをいいます。
そのため、架橋が脆く、ゾルからゲルに転移しても比較的簡単に元のゾルの状態に戻れます。
例えば、ゼリーは一度冷やして固めた後でも、再び加熱することで固める前の液状の物質に戻ります。
熱を加えるほかに攪拌することで元の状態に戻るものもあります。
また、本来はゾルーゲルはコロイド分散系の概念ですが、これを広く捉えると、ポリマーの溶液からゲルを作る場合にもゾルーゲル転移に似た挙動を示すものがあります。
溶媒に可溶なモノマーAと溶媒に不溶なモノマーBがA-B-Aのような形で重合したブロック共重合をゲル化する例では、
溶媒に不溶なモノマーBはモノマーB同士で凝集して架橋点となり、
溶媒に可溶なモノマーAは溶媒和によって網目構造の中に溶媒を取り込んで膨潤したゲルとなります。
この場合はモノマーB同士が弱い分子間力で凝集していると考えられるので、広義の物理ゲルに含まれると言えます。
ゾルーゲル転移の応用例
ゾル―ゲル転移がどのような技術に使われているか探してみたので、以下に3つ例を挙げます。
ゲルインキボールペン
私たちの生活に身近なゲルインキボールペンも、物理ゲルが攪拌によってゾルに戻るという特性を利用した例です。
ボールペンはその名の通り、ペン先にボールが入っています(下図の③)。
ゲルインキはゲル化剤が添加されたインクで、通常はゲル状になって固まっています。
筆記の際にはこのボールが回転することにより、ゲル化したインクが攪拌されてゾルに戻ります。
そのため、書いたときには図の③と④の隙間からインクが流れ出てきて文字が書けるようになります。
そして書かかれた文字は再びゲル化して固まります。
癒着防止材
物理ゲルのところで少しゾル―ゲル転移を拡大して解釈した例を書きましたが、これを利用した癒着防止材の特許がありました。
外科手術の後に、本来は別々の臓器同士が炎症のためにくっついてしまう癒着という現象があります。
癒着を防ぐために従来採られていた方法は、フィルム状(シート状)の癒着防止材を手術部位に挿入するというものでした。
しかし、この方法には次のような課題がありました。
・複雑な形状の部位に密着させることが困難である
・一度貼り付けたとしても患者の動作に伴い次第にズレてしまう
そこで開発されたのが、温度応答型のゲルを使う方法です。
溶解度の異なる2種類のモノマー(εーカプロラクトンーcoーグリコール酸とポリエチレングリコールなど)を用いて、室温では液体、体温まで温められるとゲル状になる、というものです。
これにより、以下のメリットが得られました。
・注射器などで簡単に体内に注入できる
・該当の部位が通常のフィルムではカバーしにくい複雑な形状であっても塗布しやすい
・患者の動作によってずれることが少ない
燃料電池の自己修復ゲル
燃料電池のイオン交換膜にゾル―ゲル転移を利用した特許もありました。
燃料電池とは、水の電気分解と逆の原理で働く発電装置です。
酸素と水素を使って発電します。
近年、自動車やバスへの利用が進んでいます。
燃料電池では白金を電極として使用します。
負極と正極のそれぞれに外部から水素と酸素が供給され、次のような反応が起こります。
負極:H2 → 2H+ + 2e–
正極:O2 + 4H+ + 4e– → 2H2O
必要な電力を得るために、実際は上記の燃料電池をいくつもつなげたスタックと呼ばれる構造にして用いられます。
このような燃料電池のプラスとマイナスの電極板を仕切ってHイオンのみが移動するようにしているのがイオン交換膜です。
燃料電池はイオン交換膜の種類によって以下の4種類に分けられます。
・固体高分子型
・リン酸型
・固体酸化物型
・溶融炭酸塩型
この中でも発電効率や軽量化の面で最も注目されているのが固体高分子膜を使ったものです。
高分子のイオン交換膜は本来Hイオンのみを移動させるはずですが、応力の影響等で膜にピンホールと呼ばれる直径数?程度の小さな穴が発生することがあります。
小さな穴ではありますが、ピンホールができるとそこを通って気体のままの水素と酸素が反応してしまうクロスリークという現象が生じます。
気体の水素と酸素が出会うと、水を生成して発熱する化学反応が起きてしまいます。
すると、本来であれば電気エネルギーになるはずのものが熱エネルギーになります。
このため、発電効率が落ちるうえ、発熱反応によって部品が加熱されて劣化するという問題が出てきます。
ピンホールが生じた場合にスタックの中の該当箇所を特定して修復するのは非常に困難です。
そこで、ゾル―ゲル転移を利用して容易に修復できるようなイオン交換膜を発明したというのが特許の内容です。
一定の温度(150~180℃の温度域)でゲルからゾルに転移するような材料をイオン交換膜に用いることで、
ピンホールができたとしても熱を加えて一度ゲルに戻してしまえば簡単にピンホールを修復でき、再度ゲル状にして使えるというわけです。
参考)
・小久保尚「ゲルの化学ー基礎と機能化ー」化学と教育. 70巻-11号, 2022
・土岐元幸「ゾル―ゲル法のやさしい概要とその用途」表面技術. 50巻-2号, 1999
7/26(金)学習時間:7H
・岡野の化学(173)続き
・ゾル―ゲル転移についてまとめ
課題)
・写真フィルムの原理についてのまとめ続き
その他
・3139 ほうれんそうの重要性
指さし確認用に、未チェック部分に自動で色がつくチェックリストのひな形をExcelで作った。
cv応募時、納品前の校正時、など場面に応じて必要な項目を追加していく。
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