岡野の化学で保護コロイドのについて学習したところ、保護コロイドの例として墨汁のニカワが挙げられていました。
改めて「ニカワって何?」と聞かれると、「動物の骨や皮でつくられるもの」「日本画で使われるもの」という程度しか知りませんでしたので、調べてみました。
ニカワとゼラチン
膠とゼラチンの違い
私の頭の中ではニカワとゼラチンが全然結びついていなかったのですが、
実はニカワもゼラチンも同じくコラーゲンを主成分としています。
ニカワとゼラチンの違いはコラーゲンの純度です。
コラーゲンの純度が高いものがゼラチンです。
ゼリーに入っているものは馴染みがあると思いますが、ゼリーの他にも、グミやマシュマロ、冷凍食品、ハムなど様々な食品に使われています。
食品の他にも、薬のソフトカプセルや、フィルム写真を現像する際に使われる乳剤にも利用されています。
ゼラチンよりも純度が低いものがニカワで、工業利用されています。
例えば、弦楽器の木面の接着剤、文化財の修復用接着剤、墨、塗料などへの使用が挙げられます。
合成接着剤が登場する以前はニカワが主要な接着剤の役割を果たしていたため、文化財とされる木造建築や日本画の修復にもニカワが使われます。
コラーゲンの構造
タンパク質についての復習を兼ねて、ニカワとゼラチンの主成分となるコラーゲンについて確認します。
コラーゲンはタンパク質の一種で、皮膚、血管、腱、歯、骨など生物の体のあらゆる組織を構成しています。
タンパク質は20種類のαアミノ酸がペプチド結合によって鎖状につながった高分子です。
アミノ酸は、分子内にカルボキシル基(-COOH)とアミノ基(-NH 2)の両方を有する化合物の総称です。
その中でもαアミノ酸は、下図のように、同一の炭素原子に水素、カルボキシル基、アミノ基、アルキル基がそれぞれ結合した構造をもつ化合物です。
アミノ酸同士のカルボキシル基とアミノ基から水分子がとれて縮合重合することによってできる結合がペプチド結合です。
アミノ酸が2~50個程度ペプチド結合したものがペプチドと呼ばれ、50個以上結合したものがタンパク質と呼ばれます。
使われるアミノ酸の種類とその組み合わせによって、様々なタンパク質が作られます。
コラーゲンの場合は、グリシンが2つおきに現れるような構造になっていて、(Gly-X-Y)n の形で表せます。
XとYには色々なアミノ酸が入りますが、最も多いのは下図の、グリシン-プロリン-ヒドロキシプロリンの3つのアミノ酸の組み合わせです。
さらにこのようなアミノ酸が連なってできた鎖が3本撚り合わさって三重らせんを作っているのがコラーゲンの構造の特徴です。
グリシン-プロリン-ヒドロキシプロリンのユニットは三重らせんを形成するのに重要な役割をはたしていると考えられます。
プロリン及びプロリンにOH基がついたヒドロキシプロリンは、αアミノ酸のR基部分が比較的大きな五員環になっており、立体的に取れる配置が制限されやすくなります。
このため、アミノ酸鎖のねじれの方向が定まりやすくなります。
繰り返しで使われるグリシンは、アルキル基が水素になっている最も小さなアミノ酸です。そのため三重らせんの内側にうまく入り込むことができます。
またDNAの二重らせんの場合と同様に、ペプチド結合の隣り合ったN-HとC=Oの間の水素結合などが三重らせんの構造を安定化しています。
下の図はアミノ酸からコラーゲンが作られる様子を表したものです。
コラーゲンからゼラチンやニカワを作るときは、これと逆のプロセスになります。
加熱によってコラーゲンの三重らせんをバラバラにほどいたものがゼラチンやニカワです。
動物の骨や皮を構成しているのがコラーゲンですから、コラーゲンを主成分とするニカワを作ろうと思えば動物の骨や皮を煮る、ということになるのですね。
コラーゲンでは三重らせんの構造を安定するために-COOHや-NH2や-OHといった親水基部分が使われており、疎水基部分が外側に出る形になっているため、水溶性が低いです。
しかし、加熱分解して三重らせんをバラバラにすると親水性の官能基が表に出て周囲の水分子と水素結合を作れるようになり、また分子量も小さくなるため、水に溶けやすくなります。
よってゼラチンやニカワは親水性であるということができ、以下に見る保護コロイドの役割を果たせます。
保護コロイド
保護コロイドとは
前回の記事で親水コロイドと疎水コロイドについて書きました。
水との親和性の有無によってコロイドを分類したものです。
親水コロイドと疎水コロイドはいずれも電解質を加えると沈殿しますが、
親水コロイドが周囲に多数存在する水分子と水和することで比較的安定して分散していられるのに対し、
疎水コロイドの場合は少量の電解質による電荷の変化ですぐに沈殿してしまいます。
そこで、不安定な疎水コロイドをより安定して分散させるためにはどうしたらよいかというと、
疎水コロイドを親水コロイドで包むことによってあたかも親水コロイドのように水和させる方法が考えられます。
それが保護コロイドです。
下図のように疎水コロイドを取り囲む親水コロイドのことを指して保護コロイドと呼んでいます。
保護コロイドとして使われるニカワ
身近な保護コロイドの例としては、例えば以下のものがあります。
ニカワの例で見てみましょう。
墨汁に使われるニカワ
ニカワを保護コロイドとして使った代表例の墨汁を見てみましょう。
墨汁の場合は疎水コロイドである煤(スス)を保護コロイドであるニカワが取り囲むことによって水中に安定して分散します。
もしニカワがなくて疎水コロイドの煤だけの場合は、下図のようにすぐに沈殿してしまいます。
また、ニカワの含有量は墨の滲み具合にも影響します。
ニカワは親水コロイドですので、ニカワの含有量が多くなれば水和しやすくなりますので、字を書いたときに滲みが出やすくなります。
接着に使われるニカワ
冒頭でニカワが日本画や木造建築といった文化財に使われていると書きました。
これらはニカワを接着剤として利用した例です。
日本画では鉱石を原料とする岩絵具や土を原料とする水干絵具を使用します。
しかし岩絵具や水干絵具は色の素ではありますが、そのものだけでは接着性がないため紙にのせられません。
しかし、ここにニカワと水を加えると、ニカワが保護コロイドの役割となって絵具を水中に安定的に分散させます。
紙はOH基を多数持つ親水性のセルロースを原料とするため、水と親和性があります。
そのため同じく親水性のニカワと紙は相性がよいと言えます。
岩絵具や水干絵具はそのままでは紙の上にくっつきませんが、絵具の粒子を保護コロイドのニカワが包んだ状態で紙の上にのせればくっつくことができます。
このようにニカワは接着剤として使われるのです。
ニカワは木材の接着にも使われると書きました。
木材の接着は保護コロイドとは直接の関係がありませんが、絵具の例と同じく接着剤としての機能を果たします。
木材から作られることを考えれば分かるように、木材の主成分もセルロースです。
そのため、木材と木材を接着するのに同じく親水性のニカワが適しているのです。
今回はニカワが保護コロイドとして使われる例を中心にみてきました。
ゼラチンが保護コロイドとして使われる例としては食品が身近ですが、写真にも使われているということなのでフィルム写真のしくみを調べているところです。
原理が理解できたら関連する特許明細書を読んでみます。
参考)
・日本ゼラチン・コラーゲン工業組合 ”生活とゼラチン” https://www.gmj.or.jp/gelatin/gelatin_industry.html(参照2024-07-22)
・日本蛋白質構造データバンク ”コラーゲン” PDBj入門 https://numon.pdbj.org/mom/4?l=ja(参照2024-07-23)
・戸田雄三「銀塩感光材料における写真用ゼラチンの役割」 日本写真学会誌. 52巻4号, 1989
7/22(月) 学習時間:4.75H
・岡野の化学(172)
・2142 高分子とポリマー
7/23(火) 学習時間:3.5H
・ニカワとゼラチンについて
課題)
・フィルム写真の原理について調べる
コメントを残す