石英ガラスの製法

前回の記事で石英ガラスについて少し触れたので、今回は石英ガラスの製法の種類と、どのような用途に適しているかという点をまとめてみたいと思います。

石英ガラスの合成方法には主に以下の4つの方法があります。
それぞれの製法について見ていきます。
・直接法
・プラズマ法
・スート法
・ゾルゲル法

直接法

原料の四塩化ケイ素を酸水素炎中で加水分解することで石英の微粒子を生成し、その微粒子を溶融して石英ガラスのインゴットを形成する方法です。

https://www.jp.nikon.com/company/technology/stories/2003_synthetic_silica_glass/

化学反応式は下のようになります。

SiCl4+2H2O→SiO2+4HCl

酸水素炎とは、酸素と水素の混合気体を燃焼させたときに生じる炎で、2800℃以上の高温になります。
なぜ高温になるかというと、酸素と水素を燃焼させた場合、水の他に副生成物ができないため、エネルギーのほとんどがそのまま放熱されるためです。

この製法で特徴的なのは、酸素と水素の燃焼で生じた水蒸気が石英ガラスのSi-Oの網目構造の中にOH基の形で入り込むという点です。

OH基には赤外線波長を吸収しやすく、紫外線波長は吸収しにくい、という特徴があります。
そのためOH基を多く含む直接法は紫外線を透過する必要のあるフォトマスク材料として適しています。

プラズマ法

直接法と同じく四塩化ケイ素を原料に用いますが、
酸水素炎の代わりにプラズマ炎を用いて石英の微粒子を作り、それを溶融してインゴットを形成するという方法です。

https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/105-pdf/+105-p036.pdf

化学反応式は下のようになります。
SiCl4 + O2 → SiO2 + 2Cl2

プラズマ法の場合は直接法と異なり、合成された石英ガラスにOH基は含まれません。
赤外線を吸収するOH基が含まれないことから、赤外線を伝送する光ファイバー材料の製法として適しています。

スート法

こちらも前の2つと同じく原料に四塩化ケイ素を使います。
スート法の場合は、合成と焼結の二段階に分かれます。

https://www.jp.nikon.com/company/technology/stories/2003_synthetic_silica_glass/

第一段階は直接法とほぼ同じプロセスですが、加水分解によって生じる石英微粒子を容器の中で冷却することで微粒子同士が凝集する前に固めて、スートと呼ばれる多孔質の石英微粒子として堆積させます。
多孔質状態を経ることにより別の元素をドープしやすくなるため、材料に新たな特性を与えることができるという利点があります。

第二段階では焼結のプロセスを経ます。焼結とは融点よりも低い温度で材料を加熱し、水分を除去して原料同士を緻密に結合させる方法です。
焼結プロセスによって材料表面のOH基の多くは除去することが可能ですが、材料内部のOH基は完全に除去することは困難です。

フォトマスク材料として用いる場合にはOH基が必要になるのでそのままOH基を残しておけばよいことになります。
光ファイバーの材料として用いる場合にはOH基を減らす必要があるため、第一段階のプロセスでハロゲンガスを酸化剤として添加することによりSi-OHのOH基をハロゲンで置換し、OH基の含有量を抑えるという方法がとられます。

このようにスート法はOH基の含有量を制御できるため幅広く採用されています。

ゾルゲル法

上の3つは全て四塩化ケイ素を原料としていましたが、ゾルゲル法ではテトラエトキシシランSi(OC2H5)4を原料として、加水分解と縮合反応を起こさせます。
反応式としては下のようになります。

加水分解反応
Si(OC2H5)4 + 4H2O → Si(OH)4 + 4C2H5OH

縮合反応
Si(OH)4→ SiO2+2H2O

https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/98-pdf/+98-p040.pdf

構造式を使って書かれた方はSiの手が1か所しかOH基と変わっていませんが、時間がたつと全ての手がOH基と置換するので結果的には同じになります。

加水分解の際、テトラエトキシシランは疎水性のためそのままでは水と反応しないので、共溶媒となるアルコールでテトラエトキシシランと水をそれぞれ希釈したうえで両者を混ぜ合わせます。
また縮合反応を促進する触媒としてHClなどが加えられます。ゾルと呼ばれる流動性をもつコロイド粒子として存在していたSiO2粒子は時間の経過とともに長く連なっていき、流動性を失ったゲルと呼ばれる状態になります。
このゲルを焼結することで石英ガラスが得られます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/57/6/57_6_390/_pdf

この方法では大きなバルク素材を作るのは難しいため、ガラス繊維などの製法として適しています。

参考)
・小野田 元「石英ガラス概論(第3回)」Journal of Advanced Science,Vol.11, No.3,1999
・㈱ニコン“純度を追い続けるガラスづくり”https://www.jp.nikon.com/company/technology/stories/2003_synthetic_silica_glass/ (参照2024-07-06)
・作花 済夫「ゾル-ゲル法のあらまし:ゾル-ゲル技術とその応用」表面技術.Vol.57,№6,2006
・幸塚 広光「ゾル-ゲルコーティング技術の基礎」NEW GLASS, Vol.25, No. 3, 2010

7/6(土)学習時間:9.75H
・岡野の化学(151)-(154)
・ゾルゲル法について
・ニューガラスについて
課題)
・ゼロ膨張ガラスについて調べたところを整理する

その他
・0901 シランは有機化合物か
・4662 講座受講開始2年で500万へ
3か月の振り返りが途中になっているので続き

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。