いきなり特許明細書を探す前に

4655のビデオで取り上げていただきありがとうございます。

イオン結晶に関する特許明細書を何か読んでみようと思って適当にタイトルでヒットした「イオン結晶パターンの製造方法及び発光素子(JP2022-184258)」を読んでみていたのですが、
そもそもどんな場面で使われることを想定した特許なのかさっぱりわからず、「フォトレジストという言葉が出てきたので半導体関係ではありそうだけれど・・・」というところで初っ端からつまずいてしまっていました。

まずは岡野の化学の「イオン結晶ってどんなもの」というところから調べていって、具体的にどのような場面で使われているかをイメージできるようになってからそれに関連する特許を探すべきでした。
抽象的なものは具体例に落とし込んで、ということは言われていたはずなのに、まだまだ実践できていませんでした。

半導体にイオン結晶が使われている例をAIに聞いてみると、以下のようなものを挙げてくれました。

化亜鉛 (ZnO): 酸化亜鉛は半導体材料として広く利用されており、特に高効率の紫外線発光ダイオード (UV-LED) やトランジスタに使用されています。ZnOはイオン性の酸化物結晶で、高い電気伝導性と光学特性を持ちます。

酸化チタン (TiO₂): 酸化チタンもイオン結晶の一種で、フォトニックデバイスや太陽電池、ガスセンサーなどに利用されています。特に光触媒としての応用が有名です。

窒化ガリウム (GaN): 窒化ガリウムは青色LEDやレーザーダイオードに使われる重要な半導体材料です。GaNは強いイオン性を持つ化合物で、高温や高電力条件下でも動作する優れた特性を持ちます。

上記の特許明細書の「発明が解決しようとする課題」のところだけ、これらの用途のどれかにあてはまるのかなと想像しながら一つずつわからない言葉を調べて読んでみたところ、「ペロブスカイト層」という言葉をヒントにようやく何についての特許かが見えてきました。

ペロブスカイトとは

ペロブスカイトはCaTiO3で表される化合物の名称ですが、これと同様の結晶構造をもつ化合物が一般的にペロブスカイトと呼ばれています。

下図のような構造になっています。

https://enecoat.com/contents/%E3%83%9A%E3%83%AD%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%88%E5%A4%AA%E9%99%BD%E9%9B%BB%E6%B1%A0%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%81%A8%E7%99%BA%E9%9B%BB%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0/

カチオンとアニオンでイオン結合をつくるため、ペロブスカイト結晶はイオン結晶の一種と考えられます。
今回の特許明細書で言われている「イオン結晶パターン」は、このペロブスカイトを用いた層のパターニングのことを念頭に置き、さらに他のイオン結晶層についても広くカバーする特許にするために「ペロブスカイト層パターン」ではなく「イオン結晶パターン」という名称にしていると想像します。

ペロブスカイトと太陽電池

先ほどAIの答えにも出てきましたが、太陽電池に半導体が使われており、ペロブスカイトは太陽電池の半導体材料としてよく使われています。
ペロブスカイト層を用いた太陽電池では、ペロブスカイト層がp型半導体とn型半導体に挟まれており、さらにその両外側に電極があるという構造になっています。

https://solid-mater.com/entry/perpv

以前に半導体ヘテロ接合材料に関する特許明細書を読んだときに、物質にはそれぞれに固有のバンドギャップが存在し、バンドギャップより大きなエネルギーを外部から吸収すれば価電子帯の電子が伝導帯に励起して自由電子となるということ、また電子をキャリアとするn型半導体と、ホールをキャリアとする(実際に電荷をもつのは電子ですが)をp型半導体があるということを学習しました。

太陽電池ではペロブスカイト層が太陽光から光エネルギーを吸収し、価電子帯の電子が伝導帯に励起して自由電子となります。この自由電子は隣接するn型半導体層を通り電極に向かいます。残ったホールの方はもう一方の面で隣接するp型半導体層の方に移動していきます。このような仕組みで電流が流れます。

太陽光を吸収する際、バンドギャップと吸収する光エネルギーの大きさが重要です。
吸収するエネルギーがバンドギャップよりも小さければ電子は励起できないので電流が流れないのはもちろんですが、吸収するエネルギーがバンドギャップより大きすぎても、余分なエネルギーが熱エネルギーとして出て行ってしまい、効率よく電流を流すことができません。

http://www.dsc.rcast.u-tokyo.ac.jp/res.html

効率よく光を電気に変換するためには、吸収するエネルギーの幅とバンドギャップがほぼ等しくなっていることが求められます。
ペロブスカイト層のバンドギャップは太陽光の吸収にちょうどよい大きさになっており、太陽電池に適しています。

ペロブスカイトと発光

最初は今回の特許も太陽電池についてのものなのかと考えてよんでいましたが、ペロブスカイト層が発光層と紐づけられていたのでどうも違うようです。
先ほどAIが挙げた用途の中にLEDが出てきたのでこのあたりかなと思ってもう少し調べてみると、
ペロブスカイトはLEDの発光材料として近年注目を集めているということが分かりました。

太陽電池の場合は外部の光エネルギーを電気に変換していましたが、発光材料として使う場合はその逆で、外部から電気を与えてそれを光に変換するということを行います。

太陽電池の場合はペロブスカイト層の電子とホールが分かれてそれぞれ電荷輸送層を移動することで電流が生じましたが、発光の場合は電荷輸送層から流れてきた電子とホールがペロブスカイト層内で再結合し励起状態から基底状態に戻る際に発光するということになります。

今回の特許もこのような仕組みを念頭に置いていると考えられます。

参考)
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20191112/index.html

発明が解決しようとする課題

どのような製品を想定した特許かがようやく見えてきたところで、今回の特許明細書の解決しようとする課題を読んでみました。

半導体にパターニングする際、中空構造を作るなどの目的で、後行程で取り除く前提の犠牲層を形成することがあります。

イオン結晶層のパターニングに関しては、犠牲層を取り除く工程で犠牲層を溶解する溶媒にイオン結晶層もその溶媒に溶解し、犠牲層とともに剥離してしまうという課題があったとのことです。

今回の特許では犠牲層を除去する溶媒を極性の低いものにすることにより、イオン結晶が溶解して剥離することを抑制するとしています。
塩化ナトリウムが水に溶けやすいように、一般に極性をもつ化合物は極性をもつ溶媒に溶けやすいということが言えます。
今回の特許の犠牲層には低極性有機化合物が使われると書かれているので、犠牲層の除去液を極性が低いものにすれば犠牲層だけが溶解して取り除かれ、ペロブスカイト層をはじめイオン結晶層の剥離は抑えられるということになります。

ようやく今回の特許の全体像が見えてきましたが、この特許のどこに新規性や進歩性があるのかよくわかりませんでした。
イオン結晶層と犠牲層の極性の有無を考えて犠牲層だけが除去されるような除去剤を使うということは普通に行われているのではないかと思ってしまいましたが、犠牲層の除去が一般的にどのように行われるのか、企業のサイトや他の特許を見てみます。

6/1(土)学習時間:13.75
・岡野の化学(100)~(102)
・モース硬度について
・電気的特性と光学的特性の種類について
・太陽電池のしくみについて
・特許明細「イオン結晶パターンの製造方法及び発光素子」発明が解決しようとする課題
・他にも読みたい特許明細も調べたいこともたくさんあったが、ひとつの明細の数行を読むのに半日近くかかり、1日1件読むという目標ペースには全然届いていない。
それでも丁寧に調べながら読むと最初は読めなかったものが少しは理解できるようになるので、毎日少しずつでも明細書を読むことは続ける。

課題)
・光学的特性と機械的特性について調べる
・多結晶シリコンから単結晶シリコンのインゴットを作る製法について調べる
・犠牲層の除去方法について調べて特許を読む

その他
・4655 徹底した出口戦略に忖度はいらない
課題)
・求人情報で見つけた会社・職種・分野をまとめ

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。