アゾベンゼンの面白い性質

岡野の化学でジアゾカップリングについて勉強しましたので、その代表としてアゾベンゼンについて調べてみたところ、とても面白い性質があることがわかりましたのでまとめます。

アゾベンゼン

アゾベンゼンはこのように2つのベンゼン環がアゾ基(N=N)でつながった構造をしています。

トランス型とシス型があります。
アルケンの場合と同じで二重結合があるためシス-トランス異性体が存在するのですね。

ちなみにChemical Bookで調べると「トランスアゾベンゼン」と「シスアゾベンゼン」ではなく「(E)-アゾベンゼン」と「(Z)-アゾベンゼン」がメインの化学名として載っていましたが、これは二重結合の両端の同一置換基が水素原子でない場合はcisとtransの帰属が明確にできないのでEZ表記にするのがより一般的とのことです。(「化学便覧 基礎編」(3.5.2 有機立体化学命名法)より)

アゾベンゼンの光異性化

実はアゾベンゼンは光をあてることでシス体とトランス体を行ったり来たりできます。
この性質を光異性化といいます。

http://www.radtechjapan.org/cms/wp-content/uploads/2022/04/125.pdf

行ったり来たりできるとは言っても、上の図の矢印をみると「紫外線」と「可視光または熱」で条件が違いますね。

シス型からトランス型になるときは可視光など比較的弱いエネルギーで済むのに対し、トランス型からシス型にするには紫外線、つまり、より強いエネルギーが必要になります。

その理由はトランス型の方が安定した状態だからです。
下図の右側のエネルギー図をみると、トランス型の方がより谷が深くなっていて、シス型よりエネルギーの低い安定した状態であることがわかります。

https://www.researchgate.net/figure/a-Azobenzene-isomer-structures-and-an-overview-of-properties-b-Absorbance-spectrum_fig4_362866378

これは以前に2-ブテンのシス型とトランス型で勉強したのと同じことですね。
一般にシス型になるとかさ高い基が隣合って立体障害が生じやすいようなので、おそらくアゾベンゼンの場合もそうなっていると推測されます。
(この点は調べてもはっきり書いてあるものが見つけられませんでした)

さて、このように光をあてることで立体構造が変化することに何のメリットがあるのでしょうか?
それはシス・トランスの構造が変わることで物性が変化することと関係します。

油脂のところで勉強したようにトランス型とシス型では融点が異なります。
そのため、シス・トランスを変えることで、液体から固体、固体から液体、と化合物の物性を変化させることができます。

この性質を使ってアゾベンゼンの誘導体の化合物で接着剤を作った場合、光をあてることで接着したり剝がしたりということが容易にできるようになります。
熱による接着の場合は、一度加熱して接着してしまうと元に戻せなかったり、接着したい部分と違う場所にも熱が伝わってしまったりといったことがあります。
光異性化を利用した接着剤はこういった問題点がなくなるので、仮接着したい場合や接着した部品を解体してリサイクルしたい場合などに有効です。

アゾベンゼンの発光

アゾベンゼンのもう一つの面白い性質は発光です。

アゾベンゼンに光をあてると通常はシス・トランスが変化するだけですが、この光異性化を抑制することでアゾベンゼンを発光させることができます。

どういうことかというと、以前に調べた「励起と発光」が関係します。

http://www.ncsm.city.nagoya.jp/cgi-bin/visit/exhibition_guide/exhibit.cgi?id=S520&key=%E3%81%97&keyword=%E7%B4%AB%E5%A4%96%E7%B7%9A

ある物質に光をあてるとその物質は光エネルギーを吸収してより高いエネルギー状態になります(励起状態)。これがもとの状態(基底状態)に戻るときに光エネルギーとして放出されると発光するというメカニズムです。

アゾベンゼンの場合は光をあてると通常はそのエネルギーをシス・トランスの異性化に使ってしまうのでほとんど発光しませんが、アゾベンゼンに特定の置換基をつけて異性化を起こりにくくすることにより、通常であれば異性化に使われていたはずのエネルギーを光エネルギーとして放出させ、発光させることができるのです。

https://xtech.nikkei.com/dm/article/NEWS/20070208/127514/

また光エネルギーとして放出する量をうまく調整することで様々な波長の光を取り出すことができます。
このような技術はフォトクロミックと呼ばれ、記録媒体、調光レンズ、アクセサリなど様々な分野に応用されています。

参考)
https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1806981/eng2621.pdf
https://xtech.nikkei.com/dm/article/NEWS/20070208/127514/
http://www.radtechjapan.org/cms/wp-content/uploads/2022/04/125.pdf
https://ymdchem.com/pages/87/

5/3(金)学習時間:13.5H 
・岡野の化学(52)~(53)
・アゾベンゼンについて
・アミンとその関連でマインドマップを作成
・フェノール樹脂の難燃性について
課題)
高分子についてもマインドマップで整理する

その他
・4118 アミンの構造性と立体障害
・2159 マクマリーについて
・2011 メールライティング
知子の情報については学習した内容やこれから調べないといけないことを登録するのに使っていましたが、メールの型、特許の言い回しなどをデータベース化するのにも使えると知った。
それぞれのデータベースを作ったので収集できるものは少しずつ集めていく。

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。