静電気力による吸着と静電チャック

吸収・吸着について調べ直しをしたので、その中で静電気力による吸着について追加で調べたところをまとめます。

吸着とは、ある物質の表面に別の物質が付着する現象で、
共有結合などの化学結合による不可逆的な化学吸着と、
弱い分子間相互作用による可逆的な物理吸着とがあります。

今回は物理吸着における様々な相互作用のうち、静電気力について取り上げます。

では静電気力とはどのようなものでしょうか。
まず元になる静電気について見ていきます。

静電気とは:
2つの物体の間で電子の移動が起きることによって電子の過不足が生じて電荷が偏った状態になり、その電荷の分布の時間的変化や空間的移動がほとんど起こらないような状態の電気のことを言います。

静電気が起きる原因とその例として以下のものが挙げられます。

①接触帯電:指が電気のスイッチに触れたときに放電が起きる
②摩擦帯電:プラスチックの下敷きで髪の毛をこすると髪の毛が逆立つ
③剥離帯電:ビニール袋を開けようとするとくっついていて開けづらい
④誘導帯電:布でこすったプラスチック定規を蛇口から出る水に近づけると水が曲がる

静電気力とは、このような静電気を帯びた物体の間に働く力のことです。
プラスの電荷を帯びたもの同士あるいはマイナスの電荷を帯びたもの同士は反発しますが、プラスを帯びたものとマイナスを帯びたものは引き合います。
このように異符号の電荷をもつもの同士が引き合うときの静電気力によって吸着が起こります。

静電気力が我々の生活に邪魔になる場面もあれば役立つ場面もあります。

静電気力が邪魔になる例:
以下のような物・場面では静電気によってホコリが吸着するのを避けるなどの目的で帯電防止剤が使われます。
・医療用フィルム
・ディスプレイ
・食品パッケージ

静電気力をうまく利用した例:
以下のように静電気力による吸着現象を利用した技術もあります。
・静電気によってホコリを吸着するモップ
・吹き付けた塗料に電圧をかけて付着させる静電塗料
・半導体製造で利用される静電チャック

静電気力による吸着をうまく利用した例として、静電チャックについて少し説明してみます。

静電チャックは主に、半導体製造においてウエハ上に形成した薄膜を加工するエッチングの工程において、ウエハが動かないように把持するために使われます。

https://www.otsukael.jp/appcase/semiconductor

静電チャックの中には電極が内蔵されており、内部電極に電圧を印加すると静電チャックの中のマイナスとプラスの電荷が移動し、ウエハーの正負の電荷が静電チャックの内部電極と引き合うように移動して吸着し、固定される、という仕組みになっています。

https://creative-technology.co.jp/esc/

冒頭に書いたように静電気力による吸着は物理吸着であり可逆的な反応であるため、吸着の逆反応である脱着も起こります。
そのため電圧をかけるをやめればウエハを取り外すことができます。

また吸着には発熱反応が伴います。
吸着によって系はエネルギーの低い安定した状態になるため、吸着が起こる際には熱が放出され(吸着熱)発熱します。
そこで静電チャックには吸着熱の対策のため冷却装置がついているのかなと想像しましたが、やはり冷却用の金属プレートがついた構造になっていました。

(追記)ここまで書いておいて後から気付きましたが、エッチング工程においては吸着熱というより、プラズマ熱を処理する目的のようです。吸着熱に注目しすぎてミスリードされてしまいましたが、ここはもっと調べないといけません。

https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/contents/pdf/2008_07_04.pdf

半導体製造においては、熱がデバイスの品質や歩留まり(ウエハ1枚に設計されたチップの最大個数に対して実際に生産された良品の割合)に影響するため、温度管理が重要になります。そのため熱を抑える工夫が必要になります。

https://semiconductor.samsung.com/jp/support/tools-resources/dictionary/semiconductor-glossary-yield/

また静電チャックの素材には耐熱性や耐摩耗性に優れたセラミックが多く使用されています。
静電チャックに関する特許を検索してみるとトイレやお風呂の浴槽で有名なTOTOが出てきたので不思議に思いましたが、セラミック素材という共通項から展開されているのですね。

参考)
「新版 静電気ハンドブック」静電気学会 編
https://www.disco.co.jp/jp/solution/library/polisher/etcher.html
https://jp.toto.com/products/ceramics/elewafer/
https://www.ceramic.or.jp/museum/contents/contents/pdf/2008_07_04.pdf
https://creative-technology.co.jp/esc/

5/14(火)学習時間:7.5H
・吸着と静電気について
・クロマトグラフィーの基本的なしくみについて
・カラムクロマトグラフィを使っている様子をYouTube動画で視聴

課題)
・静電気力にもクーロン力とジョンセン・ラーベック力とがあるようだがその違いは何か調べる。
・電気、電荷、電流、電圧といった基本概念について確認する。
・液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーの違い、クロマトグラムの見方について調べる。
・静電気と湿度の関係について調べる。
・帯電防止剤に界面活性剤が使われる仕組みについて調べる。
・静電チャックと吸着と熱の関係を調べる

その他視聴ビデオ
・4071 岡野の化学からはじめよう

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。