コメントの付け方について考える

前回に引き続き特許明細書の対訳学習をしています。
前回の記事では、原文の意図が不明確な場合にコメントをつける、という点を意識できていませんでした。
実務では何でも自分で判断せずに確認するというコミュニケーション能力も必要なので、コメントの付け方も練習しないといけませんでした。

前回取り上げた特許明細書の中に原文の記述で少し気になる箇所があったので、その部分をどのようにコメントすべきか、AIとやりとりして考えてみました。

【0022】
A substrate can be planarized or polished with a CMP composition of the invention using any suitable polishing pad (e.g., polishing surface).
Suitable polishing pads include, for example, woven and non-woven polishing pads. Moreover, suitable polishing pads can comprise any suitable polymer of varying density, hardness, thickness, compressibility, ability to rebound upon compression, and compression modulus.

この1文目の(e.g., polishing surface)について、公開訳は以下のように原文通りに訳していますが、任意の研磨パッドの具体例としてなぜ研磨面が出てくるというのがよくわかりませんでした。

【公開訳】
基材は、任意の適当な研磨パッド(例えば、研磨面)を使用して本発明のCMP組成物で平坦化するかもしくは研磨することができる。

そこでAIとやりとりしてみました。

自分:
any suitable polishing pad (e.g., polishing surface)という箇所ですが、この()内の意味がよくわかりません。なぜ任意の「研磨パッド」の具体例として「研磨表面」が挙げられているのでしょうか?例えば研磨表面についてバリエーションが考えられる、という意味なのでしょうか?

AI:
ご質問ありがとうございます。確かにこの部分は少し紛らわしいですね。この点について詳しく説明いたします。

“any suitable polishing pad (e.g., polishing surface)” という表現について:

基本的な解釈:
ここでの “(e.g., polishing surface)” は、「研磨パッド」の言い換えや具体例として「研磨表面」を挙げているようです。

可能性のある意図:
研磨パッドと研磨表面を同義語として使用している可能性があります。つまり、この文脈では「研磨パッド」と「研磨表面」をほぼ同じ意味で扱っているかもしれません。
研磨パッドの重要な部分が実際に研磨を行う表面であることを強調している可能性があります。
「研磨表面」という言葉を使うことで、従来の「パッド」という概念だけでなく、より広い範囲の研磨ツールや表面を含める意図があるかもしれません。

技術的な観点:
研磨プロセスにおいて、実際に基板と接触して研磨を行うのは研磨パッドの表面です。この「研磨表面」には様々な特性(粗さ、硬度、気孔率など)があり、これらが研磨性能に大きく影響します。

解釈の提案:
この表現は、「任意の適切な研磨パッド(特にその研磨表面)」と理解するのが適切かもしれません。つまり、研磨パッド全体を指しながら、特にその表面の特性が重要であることを示唆している可能性があります。

文脈の重要性:
特許文書では、時に広範な保護を得るために意図的に幅広い表現を使用することがあります。この場合、「研磨パッド」だけでなく「研磨表面」という言葉も含めることで、より広い範囲の研磨ツールや方法をカバーしようとしている可能性があります。

結論として、この表現は研磨パッドの中でも特に研磨表面の重要性を強調しつつ、同時に「研磨表面」という概念を含めることで、より広範な研磨ツールや方法を包含しようとしている可能性が高いです。特許文書の性質上、このような幅広い表現が選ばれたのかもしれません。

自分:
any suitable polishing pad (e.g., polishing surface)という記述から「研磨パッド全体を指しながら、特にその表面の特性が重要であることを示唆している」ということが読み取れますか?

普通は、研磨パッドの具体例として研磨表面が例示されている、と読むのではないでしょうか?
その場合、「研磨表面」は「研磨パッド」の一部を指すので、「研磨パッド」の具体例として「研磨表面」が出てくるのは違和感がありませんか?

AI:
ご指摘ありがとうございます。
あなたの指摘は正しいです:

通常の読み方:
確かに、一般的な英語の読み方では、”e.g.”(for example)の後に来るものは、前に述べた概念の具体例や一例を示すものです。

違和感:
ご指摘の通り、研磨表面は研磨パッドの一部分であり、研磨パッドの具体例として研磨表面を挙げるのは論理的に矛盾しています。これは確かに違和感があり、適切ではありません。

可能性のある解釈:

著者の誤り:この表現が単純に著者の誤りである可能性があります。特許文書でも人為的ミスは起こり得ます。
不適切な表現:著者が「研磨パッド、特にその研磨表面」と言いたかったのに、不適切な表現方法を選んでしまった可能性があります。
意図的な曖昧さ:特許文書では時に意図的に曖昧な表現を用いることがありますが、この場合はむしろ混乱を招く可能性があります。

正しい解釈:
この文脈では、「研磨パッド」と「研磨表面」を同等のものとして扱おうとしている、あるいは両者を包含しようとしている可能性が高いです。しかし、この表現方法は確かに適切とは言えません。
改善案:
より適切な表現としては、以下のようなものが考えられます:
“any suitable polishing pad or polishing surface”
“any suitable polishing pad (including its polishing surface)”
“any suitable polishing means, such as polishing pads or polishing surfaces”

結論として、あなたの指摘は全くその通りです。この表現は論理的に問題があり、研磨パッドの具体例として研磨表面を挙げるのは適切ではありません。この部分は文書の誤りか、不適切な表現である可能性が高いです。

自分:
この文章の後には研磨パッドの具体的なバリエーションが例示されていますよね。
だとすると(e.g., polishing surface)という記述は不要なのではないかと思うのですが、省いても影響はないでしょうか?

AI:
ご指摘ありがとうございます。あなたの観察は非常に鋭く、重要な点を指摘されています。
あなたの指摘を踏まえて考えると:

文脈の再確認:
確かに、この文の後に研磨パッドの具体的なバリエーション(織られたパッドや不織布のパッド、さらには様々な高分子材料)が詳細に例示されています。

冗長性:
“(e.g., polishing surface)” という記述は、後続の具体的な例示と比べると確かに冗長で不必要に見えます。

省略の影響:
この部分を省略しても、文章の主要な意味や情報には実質的な影響がないと考えられます。むしろ、省略することで文章の明確さと一貫性が向上する可能性があります。

改善案:
この部分を省略し、次のように書き直すことで、より明確で簡潔な文になります:
“A substrate can be planarized or polished with a CMP composition of the invention using any suitable polishing pad. Suitable polishing pads include, for example, woven and non-woven polishing pads.”

特許文書としての考慮:
特許文書では時に、広範な保護を得るために冗長な表現を用いることがありますが、この場合、後続の具体的な例示が十分に広範囲をカバーしているため、”(e.g., polishing surface)” の部分は実際には不要だと考えられます。

自分:
今回の文章を実際に翻訳の仕事として依頼されたと仮定して、翻訳者としては原文通り訳出したうえで下記のようなコメントをつけるべきと考えましたがどうでしょうか?
他の処理方法、より適切なコメントがあれば教えてください。

〈コメント案〉
原文の(e.g., polishing surface)の部分は、具体例としてやや不適切で誤解を招く恐れがあり、また後続の文にも具体例があることから冗長であり、削除可能と思われます。
クライアント様にご確認をお願い致します。

AI:
あなたの提案したアプローチとコメントは、翻訳者としての専門性と責任を適切に示しており、非常に良いものだと思います。実際の翻訳の仕事としてこの状況を扱う場合、あなたの提案は適切で効果的です。

コメントについての評価:
正確性:問題点を的確に指摘しています。
専門性:翻訳者としての分析と判断を示しています。
丁寧さ:クライアントに確認を求める姿勢が適切です。
具体性:削除可能という具体的な提案を含んでいます。


その上で、さらに改善や代替案を考えると:

より詳細なコメント案:
“原文の(e.g., polishing surface)の部分について:
‘polishing surface’は’polishing pad’の一部であり、具体例としては不適切です。
後続の文章に詳細な具体例があるため、この部分は冗長です。
この部分を削除しても文意に影響はないと考えられます。
クライアント様のご意向を確認の上、この部分の扱いについてご指示いただけますでしょうか。”

代替案の提示:
削除以外の選択肢(例:「(特にその研磨表面)」への変更)も提示することで、クライアントにより多くの選択肢を提供できます。
翻訳上の処理:
原文をそのまま訳出し、問題のある部分に「[]」や「{}」などの括弧をつけて、注意を喚起する方法もあります。
二段階アプローチ:
まず問題点を指摘し、クライアントの反応を見てから具体的な提案をする方法もあります。

9/6(金)学習時間:3H
・橋元の物理(43)
・CMP組成物に関する特許の対訳学習続き(発明の詳細な説明 途中まで)

9/7(土)学習時間:12.75H
・橋元の物理(44)(45)
・CMP組成物に関する特許の対訳学習続き(最後まで)

9/8(日)学習時間:12.5H
・橋元の物理(46)(47)
・窓付き研磨パッドに関する特許の対訳学習(請求項の途中まで)
・3568 コメントの付け方

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。