EUVリソグラフィ用の光学部材(フォトマスクやミラー)に用いるシリカガラスの材料と製法に関する特許明細書を読もうとして、背景となる知識を調べてからしばらくそのままになっていたので、昨日は最後まで読みました。
以前の記事でゼロ膨張ガラスについて書きました。
非常に微細な加工を行うEUVリソグラフィでは、フォトマスクやミラーのわずかな歪みもデバイスの性能に大きな影響を与えます。
EUVリソグラフィ以前の、g線、i線、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザなどの光源を用いたリソグラフィ技術ではSiO2純度の高い石英ガラスが光学部材に用いられていましたが、石英ガラスでもわずかに熱による膨張が生じます。
EUVリソグラフィではより微細な加工を行うため、石英ガラスよりもさらに熱による膨張が起こりにくい、つまり熱膨張がほぼゼロとなるガラス材料が求められました。
その要件を満たすべく開発されたのがTiO2を含有するシリカガラスです。
TiO2が含まれることでSiO2の構造が変化して熱膨張率がマイナスになる(熱を加えると縮む)部分ができ、それが他の部分の熱膨張を相殺することで、ガラス全体の熱膨張がほぼゼロになる、というしくみです。
今回読んだ特許以前にすでに、TiO2を含有するシリカガラスでゼロ膨張を実現するという点は特許が出ていました。
では今回の特許の肝はどこにあるのかというと、ゼロ膨張となる温度帯を拡大したという点にあると思われます。
ゼロ膨張ガラスといってもどんな条件でも膨張率がゼロになるわけではなく、熱膨張率は温度変化に伴って変化します。
従来の技術では、ゼロ膨張となる温度帯が室温となっていました。
しかし、スループット(単位時間当たりの処理能力、生産性。具体的には単位時間あたりに処理できるウェハの枚数で表す)を高めるためにはEUV光のエネルギーを高める必要があり、そうすると光学部材の温度は40℃~110℃まで上昇する可能性がありました。
そのため、室温から40℃~110℃の温度帯に熱してもゼロ膨張が保たれるようなガラスを開発したということです。
具体的にどのようにしてゼロ膨張となる温度帯を広げるのかというと、フッ素に代表されるハロゲンを一定量含有させるという方法が使われています。
凝固点を過ぎて冷却されても固まらずにドロドロになっている過冷却液体の状態から固体のガラスになるには、構造緩和と仮想温度というものが関係します。
物質を加熱すると分子が安定した状態になろうと再配列して構造が変化する現象が起き、これを構造緩和といいます。
過冷却液体から冷却されてアモルファス構造の固体であるガラスになり始める温度をガラス転移点といいますが、ガラス転移点を過ぎても構造緩和はゆっくりと続きます。
さらに冷却が進むと構造緩和が完全に停止して凍結した状態となり、この温度を仮想温度といいます。
冷却速度を比較的ゆっくりにするなど構造緩和が長く続くように制御すると仮想温度は下がります。
構造緩和の時間が長ければその間に分子の再配列が進むので、より安定した構造を作りやすくなり、熱膨張率も制御できます。
理由は調べ切れていないのですが、ハロゲンには構造緩和を長く持続させる効果があるとのことです。
ハロゲンを適量ドープすることで構造緩和を持続させて仮想温度を下げ、熱膨張率をコントロールできるというしくみです。
以前に岡野の化学で電池について学習したときにUMLの話があったので、今回は請求項の整理にクラス図とオブジェクト図を使ってみました。
Web上で無料で使えるdraw.ioというツールを使用しています。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン含有量が100質量ppm以上であり、仮想温度が1100℃以下であり、20~100℃の平均線熱膨張係数が30ppb/℃以下であり、線熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅ΔTが5℃以上であり、線熱膨張係数が0ppb/℃となる温度が30~150℃の範囲にあることを特徴とするTiO2を含有するシリカガラス。
【請求項2】
屈折率の変動幅(Δn)が少なくとも一つの面内における30mm×30mmの範囲で4×10-4以下であることを特徴とする請求項1に記載のTiO2を含有するシリカガラス。
【請求項3】
インクルージョンがないことを特徴とする請求項1または2に記載のTiO2を含有するシリカガラス。
【請求項4】
TiO2含有量が5~12質量%特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のTiO2を含有するシリカガラス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のTiO2を含有するシリカガラスを用いたEUVリソグラフィ用光学部材。
クラス図とオブジェクト図はこちらのサイトを参考にさせていただきました。
まだ今一つ使いこなせていないですが、文字だけ追っているより関係性を把握しやすいので色々と試して使いどころを覚えていきます。
7/18(木)学習時間:5.75H
・岡野の化学(164)
・TiO2含有シリカガラスに関する特許を最後まで読んで要約
課題)
・ハロゲンが構造緩和にもたらす効果とそのしくみについて調べる
その他
・3107 中学生の勉強法から学ぶ
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