ゼロ熱膨張ガラス

フォトマスク材料に使われるガラス材料として、SiO2の純度が高く熱膨張率が低い石英ガラスがよく用いられるという話を以前の記事で書きました。
しかし、EUVリソグラフィ用のフォトマスクにはさらに低い膨張率が求められるということで、今回はその話を書いてみます。

石英ガラスの熱膨張率

以前の記事に表を載せましたが、石英ガラスの熱膨張率は5.5×10-7/℃程度です。
5.5×10-7の部分はもとの長さに対する伸びの割合を表しています。
例えば1mの石英ガラスを加熱して温度が1℃上昇したときには、
5.5×10-7m = 0.55㎛だけ元の長さから伸びる、ということになります。

この膨張率はソーダ石灰ガラス(100×10-7/℃)など他のガラスと比べてかなり低いのですが、EUVリソグラフィによる微細加工では、より低膨張率であること、具体的には0±5ppb/K以内の膨張率が求められます。

石英ガラスの熱膨張率5.5×10-7/℃をppb/Kの単位に直して比較してみます。
/℃と/Kについては温度差を表しているだけなのでそのままKに変換すれば問題ありません。
ppbは10億分の1、つまり10-9にあたるので、
5.5×10-7=550×10-9より、
石英ガラスの熱膨張率は550ppb/Kということになり、熱膨張率が低いと言われる石英ガラスも0±5ppb/K以内という基準値には及びません。

ゼロ熱膨張ガラス

そこで出てきたのが、負の膨張率を持つ素材との組み合わせにより熱膨張率をゼロに近づけよう、という発想です。

膨張率が負になるということは、熱を加えると材料が縮む、ということを表します。
正の熱膨張率をもつSiO2に負の熱膨張率を持つ材料を組み合わせることで、材料全体の熱膨張率をゼロに近づけることができるという考えです。

前述した0±5ppb/K以内という基準を満たすガラスとして、TiO2(チタニア)を含むシリカガラスが挙げられます。

といっても、TiO2自体が負の熱膨張率を持つわけではありません。

TiO2が添加されることでSiO2の構造が変化するという点がポイントです。
原子や分子が熱運動によって動ける体積を自由体積といいますが、Si-O間の結合よりも結合距離の長いTi-O結合を持つTiO2が間に入ることにより、SiO2の網目構造はより自由に動きやすくなります。
このことがSiO2の構造変化を容易にし、SiO2のアモルファス構造から、SiO2の結晶格子の中にTi原子が入り込んだβ-石英固溶体に変化します。

こうしてできたβ-石英固溶体が室温で負の膨張係数を持つため、他のSiO2のアモルファス部分の正の膨張と相殺することで、全体としての膨張率がほぼゼロという材料を実現することが可能になります。

以前にガラス転移に関する記事を書いたときは自由体積という概念に触れられていませんでしたが、今回調べていて自由体積とガラス転移は非常に関係のある概念だということがわかったのでもうノートに補充します。

参考)
・小野田 元「石英ガラス概論(第2回)」Journal of Advanced Science, Vol.11, No.2, 1999
・櫛引淳一、荒川元孝、大橋雄二「直線集束ビーム超音波材料解析システムによるゼロ熱膨張ガラスの超精密評価」精密光学会誌. Vol.74, No.7, 2008
・Scannell, Garth, Akio Koike, and Liping Huang. “Structure and Thermo-mechanical Response of TiO2-SiO2 Glasses to Temperature.” Journal of Non-Crystalline Solids, vol.447, P.238-247, 2016
・中根 慎護「調理器用の耐熱低膨張結晶化ガラス」セラミックス. Vol.44,No. 3, 2009

7/7(日)学習時間:7H
・岡野の化学(155)
・TiO2を含むシリカガラスが低膨張率を示す理由についてまとめ
課題)
・自由体積とガラス転移点についてまとめ
・ガラスの結晶化と失透についてまとめ
・イオン交換とガラスの強化についてまとめ

その他
・0530 面倒臭い奴と思われないためのメールライティング術
・3068 メール文章力で差をつけろ
ビデオで紹介されていたメールの文章力に関する本を注文した。会社の業務メールの書き方も見直す。
3か月の振り返りを提出。

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。