グラフェンの製法

以前に透明電極としてITOに代わり、柔軟性を持ち、かつ電気的特性に優れた素材としてグラフェンが注目されているということを書きました。
ここ数日はこれに関連して「グラフェン含有膜、その製造方法、グラフェン含有膜積層体および光電変換素子」というタイトルの特許明細を読んでいます。

用語や背景知識が分からないものだらけなのでなかなか進みませんが最初は仕方がないと思ってじっくり調べながら進めていきます。

グラフェンの製法にはいくつか種類がありますが、今回の特許は、塗布による成膜が可能なグラフェン含有膜の製法を対象にした特許とのことです。

前提として、グラフェンの代表的な製法を調べたのでまとめます。

代表的な製法4つ

グラフェンの代表的な製法は以下の4つです。
それぞれの方法について見ていきます。

・機械的剥離法
・SiC熱分解法
・CVD法
・酸化グラフェンの還元

機械的剥離法

これは2004年にGeimとNovoselovによって発明された、グラファイトからグラフェンを単離した最初の方法です。2010年にはノーベル物理学賞に選ばれました。
考え方としては非常にシンプルで、接着テープを使って層をはがすというものです。
この方法だと大きな面積のものは得られないため、工業的には不向きのようです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj/34/2/34_85/_pdf/-char/ja

SiC熱分解法

単結晶のSiCを真空中で1000℃以上の高温で加熱することにより、Si原子だけが昇華して残ったC原子が表面でグラフェンの単層を形成するという方法です。

これによりSiC基板上に直接膜を作りデバイスを作製することができますが、SiC単結晶が高価であることや、他の基板に転写できないというデメリットがあります。

https://graphene2.ee.tokushima-u.ac.jp/research.html

CVD法

NiやCuを触媒として基板表面に付与し、そこにArなどの不活性のキャリアガスとともにメタンを送りこむことで、表面にグラフェンの単層を作ります。
これは低コストで比較的大きな面積での成膜が可能になりますが、金属触媒を使う必要があったり、金属触媒の層が多結晶であるとその上に単結晶のグラフェン層を作るのが困難であるという課題があります。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/82/12/82_1030/_pdf

酸化グラフェンの還元

さて、今回の特許で取り上げられているのはこの方法です。
これはグラファイトを一度酸化して酸化グラファイトを作り、さらにそれを還元してグラフェンを単離するという方法です。

グラファイトを過マンガン酸カリウムなどで酸化すると、ヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基の官能基が付きます。
これらの官能基の大きさによってグラファイトの層間が広がり、ファンデルワールス力が弱まって層が剥がれます。
こうして酸化グラフェン(GO)が出来上がります。
酸化グラフェンは前述の官能基によって極性を持つため、水や極性溶剤に溶かした状態で塗布することも可能になります。
このGOにさらにヒドラジンなどの還元剤を用いて官能基を取り去り、グラフェンを得ます。
ただし、この方法でできるグラフェンは最初のグラファイトに含まれていたグラフェンと違って官能基が少し残ってしまったり欠陥ができてしまいます。
こうして生成されたグラフェンは最初の状態と区別するために、rGO(reduced graphene oxide)と呼ばれます。
rGOにはグラフェン本来の電気的特性が発揮されないという課題があります。

https://www.researchgate.net/publication/328571850_Ultrafast_Pump-Probe_spectroscopy_of_Graphene_Oxide_GO_and_Reduced_Graphene_Oxide_RGO

今回の特許では、酸化グラフェンを経由することで塗布による成膜を可能にしながらも、そのグラフェン層が電気的特性を損なわないということ可能にするものではないかと思われますが、その具体的な方法はまた読み進めて確認します。

また酸化グラフェンにはガスやタンパク質を吸着する性質があるとのことで、ガスの分離技術やコロナワクチンなどにも使われているようです。
関連する特許が何件かあったので読む予定の特許リストに入れました。

参考)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj2/60/8/60_17-RV-015/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/82/12/82_1030/_pdf
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/c/12962
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/microelectronics-and-nanoelectronics/applications-of-graphene-oxide-and-reduced-graphene-oxide
https://graphene2.ee.tokushima-u.ac.jp/research.html

6/11(火)学習時間:7.5H
・岡野の化学(118)
・特許明細書ざっと読んで知らなかった用語・内容の確認
(ラマン分光・XPSの原理・分析方法、ヒドラジン、グラフェンの代表的な製法、アニール処理、ガラス転移点、銀のマイグレーション、アノード・カソードと正極・負極、仕事関数)
課題)
・上記の内容については昼間に調べていてノートにきちんとまとめられていないのでまとめの続き。
・引き続き「グラフェン含有膜、その製造方法、グラフェン含有膜積層体および光電変換素子」の特許を読む

その他
・1555 トライアルが送られてくる応募者になるために
・1619 翻訳者ディレクトリを使ったマスタCV作成術

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。