誘電性について

半導体関連の特許明細書を読んでいて「誘電率」という言葉が出てきました。
これまでも何度か見てはいたものの橋本の物理をやってからにしようと思って後回しにしていましたが、基礎概念ですし分かっていないと明細書が読めないので理解できる範囲で調べたところをまとめました。

誘電率とは

誘電率とは電場に置かれた物質がどれだけ電荷を蓄えられるかを表す指標です。
誘電率が高いほど電荷を蓄えやすく、誘電率の高さはその物質が分極のしやすいほど高くなります。

誘電分極とその種類

誘電分極とは、誘電体に外部電場を与えた際に誘電体が分極することをいいます。

誘電分極には以下の3種類があります。

https://vinita.co.jp/institute/radiofrequency/020040.html

①配向分極:水分子のような極性をもつ分子が向きを変えて、全体として分子の向きがそろう現象

②イオン分極:イオン結合をもつ物質の電荷に偏りが生じる
(イオン結合がバラバラになるわけではなく、わずかに+と-の方向に引っ張られる)

③電子分極:原子の中の電子雲に偏りが生じる

このように誘電体が分極するとそれに引き付けられることで、電極の表面に電荷がたまります。
上記①~③の分極の効果の大きさは一般的に以下のようになります。
配向分極 > イオン分極 > 電子分極

配向分極は分子の向きがそろうことで物質全体として大きな分極が生じるので最も強い分極になります。
物理シリーズはまだ見ていないからと思って敬遠していましたが、こういうところは岡野の化学でやったことがつながるのですね。

絶縁体と誘電体の違い

電気を通しにくい物質のことを絶縁体といいますが、その中でも上記のように電場の影響を受けて分極し、電荷を蓄えやすい物質のことを誘電体と呼びます。

また絶縁体と誘電体はどちらも直流回路では電気を通しませんが、誘電体は交流回路では見かけ上電気を通します。

直流回路では電圧と電流の向きが一定ですが、
交流回路では電圧と電流の向きが周期的に入れ替わります。

https://www.matsusada.co.jp/column/dc_and_ac.html

「見かけ上」電気を通すとはどういうことかというと、
交流回路の場合は電極表面の電荷が周期的に入れ替わるため、それに応じて誘電体の分極の向きが変化し、回路に電流が流れるという仕組みです。
電気を通すといっても、誘電体の中を電子が移動することによって電流が生じるわけではありません。

このような誘電体の性質を生かして電子回路の電圧を安定させたりノイズを取り除いたりする役割でコンデンサが使われています。

強誘電体 チタン酸バリウム

コンデンサに使われる誘電体材料の代表にチタン酸バリウムBaTiO3があります。
チタン酸バリウムは前回の記事で出てきたペロブスカイト構造を持ちます。

https://www.d-nanodev.riec.tohoku.ac.jp/subcontents/contents_102.html

先ほど誘電率に寄与する分極の効果について、一般的に以下の順になっていると書きました。
配向分極 > イオン分極 > 電子分極

チタン酸バリウムは主としてイオン分極に分類されますが、
真空の誘電率との比を表した下記の比誘電率の表を見ると、極性分子で配向分極を示す水などと比べても非常に誘電性が高いことが分かります。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%94%E8%AA%98%E9%9B%BB%E7%8E%87

チタン酸バリウムは強誘電体と呼ばれる特殊な誘電体で、強誘電体には誘電率の高いものが多いです。

通常の誘電体は電場がなくなると誘導分極の状態から元に戻りますが、強誘電体はそのまま分極した状態を保ちます。

チタン酸バリウムがこのような性質をもつ理由は結晶構造に関係していて、Ti4+イオンが結晶の中心から少しずれたところにあるため、電場がなくなっても結晶に電荷の偏りが生じています。自発分極とよばれるこのような分極が強誘電体の特徴です。

また、強誘電体にはヒステリシス曲線を示すという特徴もあります。
これは電場を強くしていくとある時点で自発分極の向きが反転し、ここで電場をなくしても自発分極の向きはそのままですが、ここで逆向きの電場を与えると再度自発分極の向きが反転して最初の向きに戻ります。
この動きを曲線で表したものが下図のようなヒステリシス曲線と呼ばれるものになります。

https://www.d-nanodev.riec.tohoku.ac.jp/subcontents/contents_102.html

電場の向きを変えると最終的には初めの状態に戻ってくるのですが、戻るときの経路は元の経路と異なります。
こうして曲線の面積にあたる部分は分極反転の1サイクルあたりに生じるエネルギー損失を表しているため、ヒステリシス曲線は材料のエネルギー損失を評価してエネルギー効率を上げるための指標となります。

今は難しそうなので少し見るだけにしておきますが、ヒステリシス、強誘電体、コンデンサのキーワードで特許を検索すると30件ほどヒットしました。

6/2(日)学習時間:10.75H
・岡野の化学(103)~(106)
・光学的特性と電気的特性について
・太陽電池に関する特許途中まで
課題)
・太陽電池に関する特許の続きを読む
・フォトリソグラフィーについて調べる

その他)
・平積みしていた資料をファイリングした。かいつまんで読んだものも多いが両面印刷にして5cm幅のバインダーが3冊になったので、少しやったことが見える形になった。

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。