半導体ヘテロ接合材料に関する特許②

前回の続きで半導体ヘテロ接合材料に関する特許明細書の続きを調べました。

p型半導体層には局在バンド形成元素が含まれるという説明があったので、バンドとは何かを調べました。

伝導帯・価電子帯・バンドギャップ

前提として分子軌道の考え方があります。
まだきちんと理解できていないのですが、原子と原子が結合して分子を作るとき、軌道の重なり具合と位相の関係によって、エネルギーの低い結合性軌道とエネルギーの高い反結合性軌道が新たに形成されます。

電子はエネルギーの低い安定した状態を好むのでエネルギーの低い結合性軌道の方に入り分子を作ります。
この分子にさらに原子が結合するとき、同じように低い方の結合性軌道に電子が入って結合します。
これを無限に繰り返していくと考えると下図のように低エネルギーの軌道と高エネルギーの軌道がそれぞれ帯のように分かれます。

https://semi-journal.jp/basics/beginner/band.html

電子の入りにくい高エネルギーの軌道の領域を伝導帯といい、電子が入りやすい低エネルギーの軌道の領域を価電子帯といいます。

この2つのバンドの間のエネルギーの差をバンドギャップと呼んでいます。

バンドギャップと導電性

バンドギャップがどれくらいあるかによって、電気の通しやすさが変わります。

金属の導体の場合、バンドギャップがほぼなく、電子は価電子帯から伝導帯に容易に遷移します。伝導体に移動した電子は原子核の束縛から逃れて動き回れる自由電子になるため、この自由電子の移動によって電流が流れます。

絶縁体の場合、バンドギャップが非常に大きく、価電子帯の電子が伝導帯に遷移することは困難です。そのため電気を通しにくくなります。

半導体はその中間で、バンドギャップがあるため通常は電気を通しませんが、外部からバンドギャップ以上のエネルギーを与えることで価電子帯の電子が励起して伝導帯に遷移することができ、この場合は電気が通ります。
条件によって電気を通す場合と通さない場合があるので半導体と呼ばれます。

https://semi-journal.jp/basics/beginner/band.html

下記のように電気抵抗の大きさで導体・半導体・絶縁体に分類されますが、共有結合とイオン結合が極性の大きさの違いによる連続した概念であったように、導体・半導体・絶縁体も明確な線引きがあるわけではなく連続した概念のようです。

https://toshiba.semicon-storage.com/jp/semiconductor/knowledge/e-learning/basics-of-schottky-barrier-diodes/chap1/chap1-1.html

n型半導体の場合、ドナー元素の結合に使われずに余っている電子はエネルギー準位が高いため、わずかなエネルギーで伝導帯に移り、自由電子になります。

一方半導体の中でもp型半導体の場合は伝導帯の中の電子の移動よりは価電子帯での電子の移動が主になります。アクセプタ元素のホールが存在する軌道のエネルギー準位(アクセプタ準位)が価電子帯の上端に近いところにでき、わずかなエネルギーで価電子帯の電子がホールに入ります。すると価電子帯の電子が抜けたところにまたホールができて、ここに価電子帯の電子がまた入る、という形で価電子帯の中を電子が動けるようになります。このため電気を通すことができます。

https://semi-journal.jp/basics/beginner/band-structure.html

窒素の電気陰性度とアクセプタ準位の関係

さて、特許明細書に戻って少し読みすすめたところ、p型半導体に窒化物を用いたときに、窒素の電気陰性度が大きいことにより問題が生じるようです。
たとえば窒化ガリウムなどは窒素とガリウムの原子軌道が作用してsp3混成軌道ができますが、その際価電子帯の上端は主に窒素の2p軌道から形成され、伝導帯の下端はガリウムの4s軌道から形成されるようです。
窒素は電気陰性度が高いため、価電子帯の電子を強くひきつけて電子の状態を安定化します。これにより価電子帯のエネルギー準位は低くなります。
そのためアクセプタ準位は深くなり(価電子帯の上端から遠い、エネルギー準位が高いところに位置する)ため、例えばGaNにMgなどの不純物をドープしても価電子帯の電子がホールにうまく移れないという問題が出てくるようです。

この問題を解決するために、窒素と価電子が同じで電気陰性度の小さな元素(Pなど)で窒素の一部を置き換えることにより、価電子帯のエネルギー準位は高くなります。すると価電子帯の上端付近にアクセプタ準位が位置することになり、このことを局在バンドの形成と言っているようです。
アクセプタ準位が価電子帯の上端近くになれば価電子帯の電子はホールに移りやすくなり、電気が通りやすくなります。

「p型半導体の構成元素よりも小さい電気陰性度を有する局在バンド形成元素」と特許明細書に書かれていたのは、このような窒素の電気陰性度に由来する問題を解決するために窒素の代わりに用いる元素のことを指しているようだということがようやく分かりました。

電子親和力がどのように使われているかはまだ見えてこないのでもう少し続けて調べてみます。

5/26(日) 学習時間:12H
・岡野の化学(93)~(96)
・バンドギャップについて
・物理蒸着のスパッタリング法について、その関連で放電の種類とそれぞれに関連する特許をメモ
課題)
・半導体ヘテロ接合材料に関する特許明細書の中で電子親和力がそのように使われているかを調べる→結晶成長に関係がありそうなので、半導体の結晶成長について調べる

その他
・2133 さっさと失敗しろ
・エイバックズームで求人情報をとってファイリング
課題)
校正者など翻訳者以外の仕事も入り口として情報を集めるようにする
求人情報を整理する時間、cv作成する時間、Tradosをいつ購入してマスターするかなども入れて今後の計画を練り直す

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。