自然な日本語表現の模索

前回までは対訳学習の1件目としてCMP組成物に関する特許明細書を使って、

・原文の英語を1文読んで頭の中で大体の訳を作る → その後、公開訳・AI訳を確認

ということを繰り返して学習を進めました。

現在は2件目として、1件目と同じCMP関連で少し分野の違うものにしようということで、研磨パッドに関する特許明細書を使って以下のように学習を進めています。

・原文の英語を1文読んで自分で訳を書き起こす → その後、公開訳・AI訳を確認

頭の中で訳を考えるのと違って、実際に文章に起こそうとしてみるとしっくりくる表現がなかなか見つからなかったり、複数考えられる訳でどれを取るか迷ってしまったり、ということが多々あります。

今回は、対訳学習をする中で公開訳の日本語の言い回しが気になった箇所をいくつか取り上げて検討してみました。
【試訳】が自分の考えた訳です。

比較検討①

【原文】
This approach aids in removal of material and tends to even out any irregular topography, making the wafer flat or planar.

【公開訳】
このアプローチは、材料の除去を支援し任意の不規則トポグラフィを平らにし、ウェハを平らにまたは平面にしやすい。

【AI訳(Claude)】
このアプローチは材料の除去を補助し不規則な地形を均一化する傾向があり、ウェハを平らまたは平面的にする。

【AI訳(ChatGPT)】
この方法は材料の除去を助け不規則な地形を均す傾向があり、ウェハを平坦または平面にする。

【試訳】
この方法は材料の除去を促進し不均一な表面形状を均して、ウェハを平面または平坦にする。

“aid” の訳について

“aid” の訳について、上記の中で公開訳の「支援する」には違和感を抱きました。

「支援」の意味を日本語辞典で引いてみると以下のように書かれています。

  • 活動を容易にするためにささえ助けること。(日国 精選版)
  • 他人や他の団体の活動に力を貸して助けること。(日本語新辞典)
  • 窮地に立たされている人などを援助すること。(新明解)

基本的には「人が人を助ける」というのが「支援」の意味になるようなので、今回のように無生物に関して使うのは適切ではないと思います。

試訳では、材料の除去を助ける=材料の除去がスムーズになる、と考えて「促進する」という訳を選択しました。

“irregular topography” の訳について

“irregular topography”の訳について、公開訳では「不規則トポグラフィ」、AI訳は2つとも「地形」としています。

確かにtopographyを英語の辞書で引くと「トポグラフィ」や「地形」と出てきます。

しかし、Google検索でざっと調べてみると「表面トポグラフィ」という言い方は出てきますが、「不規則トポグラフィ」というのは英文特許明細書を日本語訳したものしか見つけられませんでした。
また「トポグラフィ」という言葉をここで使うのは少し仰々しいような感じもします。

また、ウェハ表面を「地形」というのも比喩としてはあるのかもしれませんが、実際に使われている例を見つけることができませんでした。

ウェハ表面の平坦化に関する文脈なので、ウェハ表面の地形=凹凸などのウェハ表面の形状、と考えて、試訳では「不規則な表面形状」としました。

“any” の訳出について

“any”について、公開訳は「任意の」となっていますが、ここでの“any”は、どこか好きな部分を選択してそこを平らにするというよりは全体を均一に平らにするというイメージかと思います。

訳出するのであれば、「すべての」や「あらゆる」の方が近いような気がします。
しかし、あえて訳出しなくても全体を平らにするという意味合いは文章全体から読み取れるかと思い、文章を簡潔にすることも意図して、試訳では“any”は訳出しませんでした。

“flat or planar”の訳について

“flat or planar”の訳ですが、辞書を引くとflatもplanarも「平面の」、「平らの」、「平坦な」、と同じような意味で出てきます。
英英辞典やGoogle検索でも調べてみましたが今一つ明確な使いわけが分かりませんでした。

ただ、違う単語で並べられている以上、何らかの形で訳し分ける必要はあるかと思います。

また半導体分野ではplanarizationに「平坦化」という言葉がよく使われているので、試訳ではflatを「平面」、planarを「平坦」としてみました。

検討箇所②

【原文】
To provide context, traditional approaches to incorporating a window into a polishing pad have included attaching the window to an underlying sub pad.

【公開訳】
状況を提供するために、研磨パッドに窓を作り込む従来のアプローチは、下側のサブパッドに窓を取付けることを包含してきた。

【AI訳(Claude)】
文脈を提供するために説明すると、研磨パッドにウィンドウを組み込む従来のアプローチには、ウィンドウを下層のサブパッドに取り付けることが含まれていた。

【AI訳(ChatGPT)】
背景を説明すると、従来の方法には、窓を研磨パッドの下にあるサブパッドに取り付けることが含まれていた。

【試訳】
背景を説明すると、窓を研磨パッドに組み込むための従来の方法には、窓を研磨パッドの下側のサブパッドに取り付けることが含まれてきた。

“To provide context”の訳

公開訳の「~ために」という訳はtoの用法としては正しいかもしれませんが、日本語表現としては不自然に感じられますので、少し意訳が必要だと考えます。

Claudeの訳は少し冗長な気もするので、試訳では「背景を説明すると」としました。
ChatGPT訳も同じ表現でした。

“an underlying sub pad” の訳

“an underlying sub pad”について、サブパッドがどこのunderに位置しているのかということですが、これはその前後の文章などから研磨パッドの下側だということが分かりました。

公開訳とClaude訳は「どこの下なのか」という点が明示されていませんが、意味が少しぼやけるのではないかと思い、試訳では「研磨パッドの下側の」と補足しました。

検討箇所③

【原文】
In one such embodiment, a perimeter 130 of the second opening 108 is reduced in size at all portions of the perimeter by an amount approximately in the range of 10 – 500 mils relative to the perimeter 124 of the first opening 106. In a particular such embodiment, the perimeter 130 of the second opening 108 is reduced in size at all portions of the perimeter by an amount approximately in the range of 100 – 300 mils relative to the perimeter 124 of the first opening 106.

【公開訳】
このような一実施形態では、第2開口108の周囲130は、第1開口106の周囲124に対してほぼ10~500ミルの範囲の量だけ周囲の全部分のサイズが縮小される。このような特定の実施形態では、第2開口108の周囲130は、第1開口106の周囲124に対してほぼ100~300ミルの範囲の量だけ周囲の全部分のサイズが縮小される。

【AI訳(Claude)】
このような実施形態の1つでは、第2の開口部108の周囲130が、第1の開口部106の周囲124に対して、周囲のすべての部分で約10〜500ミル程度縮小されている。特にそのような実施形態の1つでは、第2の開口部108の周囲130が、第1の開口部106の周囲124に対して、周囲のすべての部分で約100〜300ミル程度縮小されている。

【AI訳(ChatGPT)】
ある実施形態では、第2開口108の周囲130が、第1開口106の周囲124に対して、およそ10~500ミルの範囲で全体にわたって縮小されている。特定の実施形態では、第2開口108の周囲130が、第1開口106の周囲124に対して、およそ100~300ミルの範囲で全体にわたって縮小されている。

【試訳】
 このような一実施形態では、第二開口部108の外周130は、第一開口部106の外周124に対し、全周にわたり約10~500ミル縮小されている。
 さらに特定の実施形態では、第二開口部108の外周130は、第一開口部106の外周124に対し、全周にわたり約100~300ミル縮小されている。

“In a particular such embodiment”の訳

“In a particular such embodiment” の訳を、公開訳では「このような特定の実施形態では」としています。

これを読むと、前文の「一実施形態」=「特定の実施形態」のように読めてしまいますが、内容を考えると後半の文章では数値の範囲指定がより狭められているため、前文の実施形態にさらに限定を加えたものが “In a particular such embodiment” になるのではないかと考えます。

このため試訳では「さらに特定の実施形態では」としました。
ただ、原文ではそこまではっきり書かれているわけでもないので、Claude訳の方がよいかもしれません。

こうして比較してみると、個々に気になる点はありますが、全体として公開訳よりもAI訳の方がこなれた日本語表現になっていることが多いような気がします。
公開訳の中には今の私のレベルで見ても少し変だなと思うものもありますが、そのようなものを見つけても油断せず、日々進化するAIに負けない訳文を作れるようにもっとレベルを上げないといけません。

9/9~9/13:計24.75H
・橋元の物理(48)~(54)
・研磨パッドに関する特許明細書の対訳学習
9/14(土)学習時間:14.25H
・橋元の物理(55)~(57)
・研磨パッドに関する特許明細書の対訳学習(全体の半分くらいまで)
・応力―ひずみ曲線についてノート整理

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。