超臨界流体とその応用

先日に引き続き、SI基本単位の熱力学温度(ケルビン:K)について調べていたところ、超臨界流体というものがあると知ったのでその話を書いてみます。

三重点温度

SI基本単位の熱力学温度(ケルビン:K)のかつての定義は、
水の三重点温度を273.16Kとする、というものでした。
現在はボルツマン定数という物理定数を導入して粒子の運動エネルギーとの関係から定義されています。

三重点温度とは、
物質の固体・液体・気体の3つの状態が共存する温度と圧力の点です。

下図は水の状態図です。
物質の状態は温度だけでなく圧力の影響も受けます。
圧力が下がると沸点は下がります。

https://kenkidryer.jp/2020/09/20/water-triple-point-absolute-temperature/

例えば、山の上では普通の炊飯器ではご飯がうまく炊けません。
これは山の上では気圧が低いため沸点が下がり、100℃の手前で水が沸騰してしまうことにより、生煮えのご飯になってしまうためです。

分子の運動から考えると、周囲の空気分子が液体表面を押さえつける力が弱くなることで、液体分子が容易に気体として動き回れるようになるというイメージです。

超臨界流体とは

密閉した真空容器の中に水を入れたとします。
ここで圧力を高くしていくと、水は蒸発して水蒸気になっていきます。
水蒸気の密度の方が液体の水の密度よりも低い場合には水はどんどん蒸発していきますが、水蒸気と水の密度が等しくなると平衡状態となります。

https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/sf/sf1.html

このとき液体の水と水蒸気は全体にひとつの相となり、区別がつかなくなります。
物質がこのような状態になる温度、圧力の点を臨界点と呼び、この状態の物質を超臨界流体と呼びます。

液体に近い高い密度を持ちながらも、気体のように自由に分子が動き回っている、液体と気体の中間の性質を持つ状態です。

超臨界流体の応用

超臨界状態は水以外にもあらゆる物質で取りうる状態です。
代表的な物質とその臨界点は下表のようになります。

https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/sf/sf1.html

この中でも特によく工業利用されるのは二酸化炭素の超臨界流体です。
表からわかるように、二酸化炭素は、臨界温度31℃、臨界圧力7.38MPaと比較的温和な条件で超臨界流体にすることができ、また有害物質を含まないというであるという点から様々な分野で利用されています。

超臨界流体は液体と気体の中間のような性質ということでしたが、具体的には主に次の2つの性質を持ちます。
・液体のように物質を溶かす性質
・気体のように拡散する性質

1964年にコーヒー豆からカフェインを抽出する技術に関する特許が出て以来、超臨界流体の利用に関する研究が進んできました。

超臨界二酸化炭素が主に用いられているのはクロマトグラフィーなどの分離・抽出の技術です。
特定の成分を分離・抽出するという点から洗浄技術にも使われています。
有機溶媒のような溶解力を持ちながら、有害物質を抽出する際にも有機溶媒のような乾燥、廃液処理、防火対策、脱臭対策といったプロセスが不要な点がメリットとして挙げられます。

また、物質を溶解してそれを拡散させるという能力を利用して、塗装や化粧品のファンデーションにも用いられています。

例えば花王が開発したファンデーションには超臨界二酸化炭素が使われており、特許もいくつか出ていましたので、出願番号2002-107365の特許を少しだけ読んでみました。

ファンデーションには紫外線防御効果や光沢を出すなど様々なメークアップ効果を実現するために複数種類の粉体と高分子化合物とで作られる複合化粒子を用いる必要があります。
しかし従来の方法では粒子同士が凝集してしまい肌への付着性が劣るという課題がありました。
そこで拡散性の高い超臨界二酸化炭素にこれらの粒子を溶解させて周囲をコーティングすることで、粒子同士がくっついて固まることなく、肌にムラなく塗れるファンデーションを実現したということです。

参考)
・松山清“液体と気体の性質を併せ持つ超臨界流体を用いた新ナノ素材開発”福岡工業大学研究特設サイト
https://www.fit.ac.jp/fit_research/report/archives/6(参照2024-07-04)
・日本分光“超臨界流体の基礎(1)超臨界流体とは”
https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/sf/sf1.html(参照2024-07-03)
・福嶋喜章「超臨界流体応用技術」豊田中央研究所 R&Dレビュー.2000, Vol.35-No.1
・渡邉賢「超臨界流体―温度・圧力による密度制御―」化学と教育.2022, 70巻-12号
・西村勝彦“花王,超臨界流体活用で美しい肌の光学特性を再現する複合粉体を開発”日経クロステック(参照2024-07-04)

7/4(木)学習時間:4.25H
・超臨界流体と化粧品関係の特許に目を通した
・ガラスの熱的特性(膨張特性、軟化点、歪点、徐冷点)について
課題)
・ガラスの熱的特性について整理できていないのでもう少し調べてノートにまとめる
特にどのような場合に低膨張率のガラスができるのかについて調べる
・今日は岡野の化学も進める

その他
・今までブログに載せる参考文献の書き方がいい加減だったので改める

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。