ガラス転移点について

樹脂のアニール処理について調べていたところ、アニーリングの際の温度にガラス転移点が関係するようだということで、ガラス転移点について調べました。

ガラスとは

そもそもガラスとは何なのでしょうか。

ガラスには二酸化ケイ素を主成分とする物質としてのガラスを指す場合と、
ガラスという状態を指す場合とがあります。

後者の方を取り上げますと、
ガラスとは分子や原子、広義にはコロイドや高分子がランダムに(アモルファス状で)凍結した状態と言えます。

よく知っている液体から固体への変化は、ある液体をゆっくりと冷却していったとき、融点で原子や分子が結晶化して固まるものです。

しかし、液体を急速に冷却すると凝固点を過ぎても結晶化が起きず(過冷却液体)、さらに冷却すると分子の運動はゆっくりになるので次第に粘性のある液体になり、やがてゴム状になり、さらに冷却が進むとある温度でランダムな状態のまま固まります。これがガラスと呼ばれる状態です。

ゴム状態からガラス状態への変化における分子の運動をもう少し詳しく見てみますと、下図のようになっています。

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/sangaku_polymer/pdf/B/B-01.pdf

ゴム状態では高分子同士の分子間の橋渡し部分は強くひきつけ合って固定されているものの、長い分子鎖の部分部分はミクロブラウン運動と呼ばれるある程度の運動を続けることができる状態です。
これがミクロブラウン運動も止まって完全に柔軟性が失われるとガラス状態になります。

ガラス転移点

液体がある温度でランダムな状態のまま固まってガラスになると書きましたが、このときの温度をガラス転移点(Tgで表される)といいます。

高分子化合物には結晶性のものと非結晶性のものがあります。
といっても、結晶性の方も結晶だけでできているわけではなく、下図のように結晶の部分と非結晶の部分が層状になったものが集まった状態になっています。

https://home.hiroshima-u.ac.jp/atoda/2010_PolymCryst.pdf

結晶部分は融点(Tmで表される。一般的には加熱して固体から液体になる温度を融点というので冷却でも融点というのは変な気がしますが、ガラス転移点との議論においては融点という言い方に統一されているようです。)において結晶化したわけなので融点を持ちますが、非晶性の部分は融点をすぎても結晶化しないランダム状のままということで特定の融点を持ちません。
よって、結晶性の高分子はTgとTmを持ち、非結晶の高分子はTmを持たずTgのみを持つ、と言えます。

ガラス転移点に影響を与えるもの

ガラス転移点は物質によって異なりますが、ガラス転移点に影響を与える因子として、
・置換基の嵩高さ
・アルキル鎖の長さ
の2点が挙げられます。

置換基の嵩高さ

例えば、
ポリエチレンのTgは約-80℃ですが、
ポリエチレンの水素一つをベンゼン環で置換したポリスチレンのTgは約100℃です。

これは、側鎖が大きく嵩張る場合、高分子鎖同士の距離が広がり、高分子鎖の運動が制限されてたわみにくくなります。
すると、高い温度でも分子の運動が止まりやすくなり、ガラス状態になりやすくなります。
このため、ベンゼン環のあるポリスチレンの方がTgが高くなるというわけです。

アルキル鎖の長さ

高分子の側鎖についているアルキル鎖が長いほど、Tgは低くなります。
これはアルキル基のC-C結合はσ結合であり、自由に回転できるという柔軟性を持つためです。
長いアルキル鎖をもつほど分子の運動が起こりやすくなり、Tgが低くなる、つまり低い温度まで冷やさないとガラス状態になりにくい、ということになります。

https://nature3d.net/explanation/tg.html

樹脂のアニーリングとガラス転移点

樹脂のアニーリングにおいては、、
結晶性樹脂の場合はガラス転移点よりも高温で加熱、
非結晶性樹脂の場合はガラス転移点よりも20~30℃低い温度で加熱、
するという違いがあるようです。

樹脂をアニール処理する目的は、金属の場合と同様に内部応力を除去する、あるいは再結晶することで均一な結晶を作り機械的強度や耐熱性を向上させるというものです。
ここでいう再結晶とは、温度による溶解度の差を利用して純粋な結晶を取り出すための再結晶とは違い、ガラス転移点以上の、融点に近い温度にすることで分子の運動を活発にし、より多くの均一な結晶構造を作りだすというもので、結晶性樹脂において行われます。
非結晶性の樹脂ではもともと均一な結晶構造はないので再結晶化するときのような高温は必要なく、残留応力を取り除く目的で行われます。

ガラス転移点と食品の関係

ガラス状態の定義は分子や原子に限らず、広義にはコロイドや高分子についても応用することができるということを書きました。
この例で考えると高分子化合物のプラスチック製品の多くもガラスと言えますし、
歯磨き粉や化粧品のようなものもコロイドによるガラスと言えます。

これをさらに応用して身近な食品に当てはめるという考え方もあるということを知りました。

食材のガラス転移点を計算して、たとえばガラス状態のクッキーを作ればサクサクとした食感に、ゴム状態のクッキーを作ればしっとりもちもちした食感になるということです。
特許の件数自体は数件しかありませんでしたが、ガラス転移点を20℃以上にすることで歯にくっつきにくい良好な食感のハードキャンディを実現したという特許がありました。

ガラス転移点と半導体のレジストも関係があるようなので、もう少し調べて特許を読んでみます。

参考)
「物性研究・電子版」Vol. 4, No. 4, 044206
広島大学 講義資料
大阪大学 講座資料
太陽化学㈱のサイト 学術コラム「食品開発におけるガラス転移温度の利用意義とその可能性」

6/16(日)学習時間:9.5H
・岡野の化学(125)~(127)
・樹脂の熱処理とガラス転移点について
・はんだによる半導体の接合についての特許明細:全体をざっと確認、キーワードをAIで抽出
課題)
・鋼の変態について勉強したので、共析というキーワードとの関連でヒットしたはんだによる半導体の接合についての特許明細を読み始めた。鋼については時間をかけて調べたつもりだったが他の金属の場合の状態変化について調べていなかったのと、共析と似ている言葉で共晶というキーワードが出てきてわからなかったので追加で調べる。
・通勤時間でHORIBA社のpHに関するコラムを読む。

その他
・1557 CV作成に役立つKW高速マッピング
・1558 明細書読み込みとCVとの関係
・3860 項目からコンテクストへ
・「特許明細書のチェック法」第5章途中まで

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うずら
〈レバレッジ特許翻訳講座16期生〉 翻訳とは無関係の会社員生活を送っていたが、30歳になったのを機に「これが最後の進路選択のチャンス」と考え直し、文系出身・翻訳未経験から特許翻訳者への険しい道を進むことを決意。